マーケティングフレームワークは誰が作ったのか:SWOT起源の謎
会議や研修で、「まずSWOTで整理しましょう」「4Pで考えると」と、フレームワークは空気のように登場します。筆者も長年使ってきましたが、ある日ふと手が止まりました。この道具、誰がいつ作ったものなのでしょう。調べてみると、1つはつい最近まで作者がはっきりしない「出どころ不明の道具」だったことが分かりました。
定番フレームワークはどれも特定の人が特定の年に作った発明品で、SWOTの起源は2023年にようやく解明されました。
4Pは、1960年の教科書から来た
まず4P(Product・Price・Place・Promotion)。マーケティングの入り口で必ず習う、いちばん有名な道具です。これは米国の経営学者E・J・マッカーシーが1960年の著書『ベーシック・マーケティング』で体系化したもので、日本の学術論文でも「McCarthy(1960)の4P」を起点に研究が積み重ねられています※1。
1960年がどういう年か。インターネットはなく、日本ではカラーテレビの放送が始まったばかりの時代です。私たちは66年前に設計された道具を、いまだに会議室で使っていることになります。古いから駄目だという話ではありません。ただ、道具に製造年月日があるという事実は、覚えておいて損はなさそうです。
SWOTの「出生証明書」は、2023年に見つかった
今回いちばん驚いたのがSWOT(強み・弱み・機会・脅威)です。世界中の会議室で使われているのに、誰が作ったのかが長年あいまいなままでした。
決着をつけたのは、2023年に学術誌Long Range Planningへ掲載された論文「The origins of SWOT analysis」(Puyt、Lie、Wilderom)です※2。研究チームは文書アーカイブの調査や関係者への聞き取りで起源を再構成し、こんな系譜を描き出しました。実証的な基盤は1952年、航空機メーカーのロッキード社の企画部門で始まり、担い手のロバート・フランクリン・スチュワートは1962年にスタンフォード研究所(SRI)の計画研究グループの責任者になります。1965年に「SOFT」という名前の手法として発表され、1967年にSWOTへと形を変えました※2。
面白いのは原型の設計思想です。SOFTのSはStrength(強み)ではなくSatisfactory(満足できている点)で、マネージャーたちが主要な課題を書き出し、対話を重ねて解決へ向かう参加型のプロセスとして設計されていました。生みの親のスチュワートが強調したのは、計画づくりにおける創造性だったといいます※2。4象限の表を黙々と埋める現代の使われ方とは、ずいぶん肌ざわりが違います。
道具そのものより、「これほど普及した道具の出どころが半世紀以上もあいまいだった」という事実のほうが、筆者には発見でした。みんな使っているから正しいはず、という感覚がいかに当てにならないか、ということでもあります。
AIDMAは100年前生まれ、AISASは電通の商標
購買行動モデルの定番、AIDMA(注意・興味・欲求・記憶・行動)はさらに年上です。1924年、米国のサミュエル・ローランド・ホールが著書『Retail Advertising and Selling』で発表しました※3。電通グループの解説コラムも「約100年前」のモデルとして紹介しています※4。ラジオ広告の時代に生まれた道具です。
そのAIDMAを、インターネット時代に合わせて日本で更新したのがAISASです。2004年に電通が提唱し、注意・興味のあとに検索(Search)、購買のあとに共有(Share)を置きました※3。注目すべきはその次で、AISASは2005年6月に電通によって商標登録されています※3。フレームワークが「発明品」であることを、これほど分かりやすく示す事実もありません。発明品には作者がいて、時には所有者までいるのです。
道具箱には、製造年月日を書いておく
ここからは筆者の考えです。フレームワークの出どころを調べて変わったのは、道具への信頼ではなく、道具との距離感でした。
| フレームワーク | 生まれ | 作った人 |
|---|---|---|
| AIDMA | 1924年・米国 | サミュエル・ローランド・ホール※3 |
| 4P | 1960年・米国 | E・J・マッカーシー※1 |
| SWOT | 1965年SOFT→1967年SWOT(基盤は1952年から) | ロバート・F・スチュワート(SRI)※2 |
| AISAS | 2004年・日本 | 電通(2005年6月に商標登録)※3 |
4Pはネット以前、AIDMAはテレビ以前の道具です。それでも使えるのは、人間の商売や心理に時代を超える部分があるからでしょう。一方で、会社の買い物が「個人」から「購買グループ」で捉え直されているように、道具は今も更新され続けています。製造年月日を知らずに使うと、道具の前提ごと考えを縛られる。年式を知ったうえで使えば、ただの表の穴埋めが「この道具は何を見せて、何を見せないのか」という問いに変わります。
調べても分からなかったこと
- ネット上の解説でよく見かける「SWOTはスタンフォード研究所のアルバート・ハンフリーが開発した」という説の出どころ。今回参照した2023年の論文の再構成には登場せず、この説がどこから広まったのかは確認できませんでした。
- AIDMAの原典『Retail Advertising and Selling』の該当箇所。1924年・ホールの発表とする解説は複数ありますが※3※4、原書そのものにはあたれませんでした。
まとめ:みんな使っているは、根拠にならない
4Pは1960年の教科書、SWOTは1950〜60年代の軍需企業と研究所、AIDMAは1924年の広告書、AISASは2004年の電通。当たり前に使ってきた道具たちには、それぞれ作者と製造年月日がありました。そしてSWOTのように、全員が使っているのに出どころを誰も知らなかった道具もありました。
次に「まずSWOTで整理しましょう」と言われたら、60年前の参加型ワークショップの末裔なのだと思い出してみてください。道具の使い方が、少しだけ丁寧になる気がします。いま生まれ続けているフレームワークのうち、60年後まで生き残るのはどれなのか。それはまだ、誰にも分かりません。
参考文献・出典
※1 : 「マーケティング・ミックス構想時の起点と資源配分類型」 |J-STAGE(日本経営診断学会論集・有馬賢治・2021年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmda/21/0/21_93/_article/-char/ja
※2 : 「The origins of SWOT analysis」 |University of Twente Research Information(Long Range Planning誌・2023年) https://research.utwente.nl/en/publications/the-origins-of-swot-analysis/
※3 : 「AIDMAとAISASの違いや関係性とは?最新の購買行動モデルも」 |MarkeZine https://markezine.jp/article/detail/43461
※4 : 「AIDMAとは?AISASとの違い、意味やポイント、類似モデルについて解説」 |電通マクロミルインサイト https://www.dm-insight.jp/column/aidma/
よくある質問
4P(マーケティングミックス)は誰が作ったのですか?
米国の経営学者E・J・マッカーシーが1960年の著書『ベーシック・マーケティング』で体系化したものです。学術論文でも「McCarthy(1960)の4P」として参照されるのが標準になっています。
SWOT分析の起源は誰ですか?
長年あいまいでしたが、2023年に学術誌Long Range Planningに掲載された論文が、スタンフォード研究所のロバート・フランクリン・スチュワートを生みの親と特定しました。1965年に「SOFT」として発表され、1967年にSWOTへ変化したと再構成されています。
AISASとAIDMAの違いは何ですか?
AIDMAは1924年に米国のサミュエル・ローランド・ホールが発表した購買行動モデルで、注意・興味・欲求・記憶・行動の5段階です。AISASは2004年に電通が提唱したインターネット時代版で、検索(Search)と共有(Share)が加わっており、2005年6月に商標登録もされています。